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青森地方裁判所八戸支部 昭和36年(ワ)62号 判決

原告 田村緑

被告 田村孫三郎

主文

被告は原告に対し金一四二、六三三円及びこれに対する昭和三六年六月二日以降支払済に至るまで年六分の割合の金員を支払え。

原告の其の余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを八分し、その一を原告のその余を被告の負担とする。

事実

原告並びに原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一六三、〇三八円及びこれに対する昭和三六年六月二日以降支払済に至るまで年六分の割合の金員を支払え。」との判決を求め、請求原因として、

原告は衣料品の販売を業とする者であるところ、昭和三三年二月一八日以降同三五年一一月一五日まで被告または訴外阿部恵子に代金合計三四三、九八八円に相当する衣料品を売渡しその代金内金一八〇、九五〇円を受領しているが残金一六三、〇三八円が未払である。ところで、被告は昭和三三年三月頃訴外阿部恵子と内縁関係を結び事実上の結婚生活をなし、同女を住居に同棲せしめ家計一切をまかせていてその関係は三六年春まで続いていた。そして、右の期間被告は原告に対ししばしば「家計は内妻恵子にまかせてあるから衣料品を売渡してくれ、代金は自分が支払うから」との旨を告げ、原告はこれに応じて前記取引をなしたものである。以上、被告は訴外阿部恵子に衣料品売買について代理権を与えたものであり、仮に然らずとも被告は民法一〇九条による責任を免れない。仮にそれらが認められなければ民法七六一条の準用により連帯責任を免れない。よつて、被告に対し前記残代金と本件支払命令が被告に送達された日の翌日である昭和三六年六月二日以降支払済まで年六分の商事法定遅延損害金の支払を求める

と述べ、証拠として甲第一、二号証と原告本人尋問の結果を援用した。

被告は請求棄却の申立をし、答弁として、

原告が衣料品販売業者であること、被告が訴外阿部恵子と原告主張の期間被告住居で同棲し、事実上の結婚生活をしていたこと被告が昭和三三年三月頃、同訴外人買受けのセーター二枚についてのみ原告にその代金を負担する旨約したことは認めるがその余の事実は否認する。

と述べ、証拠として被告本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立は不知、同第二号証の成立は認めると述べた。

理由

原告が衣料品販売業者であることは当事者間に争いがない。原告本人尋問とこれにより真正に成立したと認められる甲第一号証によれば、被告及び訴外阿部恵子は原告と昭和三三年二月末頃より三五年一一月一五日迄の間原告から継続的に衣料品類を購入していた事実が認められる。そして、その期間中、被告は訴外阿部恵子と住居に同棲し、事実上の結婚生活をしたことは当事者間に争なく、これに原被告両本人尋問の結果認められるその間被告は家事一切を同訴外人にまかしてあり、近所の者も同訴外人を被告の妻であることに何等疑を持つていなかつた事実を合せ考えれば、その期間被告は同訴外人と内縁の夫婦関係にあり、日常の家事を共同に処理していたものと認めることができる。原告は本件衣料品の売買の当初において被告が同訴外人に衣料品売買についての代理権を授与し且つその旨を原告に表示したと主張するけれども、被告が原告に対し、はつきりと同訴外人を妻として紹介し、事後衣料品売買についての取引上代理権を与えた旨を表示したと認められる証拠はない(この点における原告本人尋問の結果はにわかに措信し難い)。尤も、両本人尋問の結果によると当時被告らの住居は原告方を間借していたのであるから、これと前記認定の様な被告と訴外人の日常生活の関係を考慮すれば、とくに言語で代理権を与えた旨を表示しなくともかゝる日常生活の態様において、日常家事に属する事柄については一般的に第三者に対し同訴外人に代理権を与えた旨を表示したものと見做すべきであるともいゝ得るのであるが、当裁判所は、かゝる場合はむしろ民法七六一条の規定が内縁関係にも準用せらるべきものと解する(けだし同条は第三者保護を主眼としたものと解するから)のでこの点から本件取引が同条に所謂日常の家事に属するものと認められる限り被告は原告に対しこれにより生じた債務につき同訴外人と連帯してその責任を免れないものと解する。

そして、前記甲第一号の記載によれば本件衣料品の購入はすべて被告及前記阿部恵子他被告の家族の日常の用に供せられるべきものとして購入せられたものと認められる。そこで被告は本件衣料品購入により生じた原告主張の残債務につきその責を免れないところ、甲第一号証を詳らかに検討すると、その帳尻残高は原告主張のとおりであるけれども原告本人尋問の結果によればその記載中には本件請求原因(衣料品代金)と関係のないものが認められるのでこれらは控除しなければならない。即ち、

一、三三年四月一〇日の項の後に三二年六月より一二月迄残金三〇、一〇〇円というのがあるが、これは計算上、前記帳尻の集計からはすでに除外してある。

二、三三年四月三〇日の項 すみれ立替 一五〇〇円

三、 〃 六月一三日の項 現金     七七〇円

四、 〃 六月二八日の項 現金     七五〇円

五、 〃 九月一〇日の項 現金     九二五円

六、 〃 九月一〇日の項 現金    二〇〇〇円

七、 〃 九月二三日の項 現金    一〇〇〇円

八、 〃 九月二八日の項 現金     七〇〇円

九、 〃一一月二一日の項 現金    一〇〇〇円

一〇、〃一二月二八日の項 現金    一〇〇〇円

一一、〃一二月三〇日の項 三三年四月一日より同年一二月三一日迄部屋代及び電気代残金

一〇三五〇円

一二、三四年五月一五日の項 現金    四〇〇円

の二乃至一二の合計二〇、三九五円を本訴請求残額一六三、〇三八円から控除した一四二、六三三円が被告が原告に対し支払うべき金額である。(なお、原告自認のすでに支払済の金額一八〇、九五〇円は、すべて本訴請求原因たる衣料品代金に充当せられているものと原告が自白したものと認める)

よつて、右金額とこれに対する本件支払命令が被告に到達された日の翌日であること記録上明かな昭和三六年六月二日以降完済まで商事法定遅延損害金として年六分の割合の金員の支払を求める限度において原告の請求は理由があり認容さるべきであるがその余は排斥を免れないので、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎)

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